『吾輩は猫である』読書感想

作品:吾輩は猫である/作者:夏目漱石/投稿日:2025-08-31

「吾輩は猫である」は、近代日本の家庭と知識人社会を、猫という第三者のまなざしを通して斜めから切り取る痛快な観察記だ。人間を超越したつもりの猫が、実は人間臭い虚栄や嫉妬を映し返すのが面白い。苦沙弥先生らの会話は饒舌で、無駄話の渦にこそ明治期の都市的な軽さと疲労がにじむ。笑いのあとに訪れる空白が、近代化の速度に置き去りにされた精神の居場所のなさを感じさせた。物語としての推進力は散漫だが、断片の輝きが随所にあり、読み終えてからじわじわ効いてくる随筆的余韻が魅力。猫の語り口は皮肉に満ちつつ読者を突き放さず、距離の美学を保つ。思想の正邪よりも、観察の姿勢そのものを面白がることを教えてくれる一冊で、明治の知的サロンの空気を生々しく伝える。