明治・大正文学ブログ

日本の明治・大正期の文学作品を読み、500字前後の感想で綴るテキストオンリーのブログです。

『吾輩は猫である』読書感想

作品:吾輩は猫である/作者:夏目漱石/投稿日:2025-08-31

「吾輩は猫である」は、近代日本の家庭と知識人社会を、猫という第三者のまなざしを通して斜めから切り取る痛快な観察記だ。人間を超越したつもりの猫が、実は人間臭い虚栄や嫉妬を映し返すのが面白い。苦沙弥先生らの会話は饒舌で、無駄話の渦にこそ明治期の…

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『坊っちゃん』読書感想

作品:坊っちゃん/作者:夏目漱石/投稿日:2025-08-31

直情径行の主人公が地方中学で体当たりする「坊っちゃん」は、勧善懲悪の痛快譚に見えて、近代的規律と共同体の暗黙の掟がぶつかる摩擦を笑いの速度で描く。坊っちゃんの正義は直線的で、読者は彼に肩入れしつつも、その単純さの危うさに気づかされる。赤シャ…

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『草枕』読書感想

作品:草枕/作者:夏目漱石/投稿日:2025-08-31

「人の世をば、歌よみに与ふるなり」で始まる『草枕』は、写生と哲学の間をたゆたう旅の書だ。峠の温泉場で画工が見出すのは、人生の苦から距離をとる「非人情」の美学。しかし読んでいると、その非人情は冷淡さではなく、過剰な感情の渦から自分を救うための…

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『こころ』読書感想

作品:こころ/作者:夏目漱石/投稿日:2025-08-31

『こころ』は「先生」と「私」の関係を通じ、罪責と孤独、そして明治という時代の終焉を静かに告別する小説だ。第三部の遺書は圧巻で、告白文学の極点として胸に刺さる。先生の倫理は自己完結的で、他者に届かないがゆえに純粋でもある。Kとの三角関係は恋愛…

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『舞姫』読書感想

作品:舞姫/作者:森鴎外/投稿日:2025-08-31

留学官吏の青年がエリスとの恋と出世の板挟みで崩れていく『舞姫』は、自己物語の語りの癖そのものがテーマ化される作品だ。一人称独白の昂ぶりは時に芝居がかっているが、そこにこそ青年の自己演出と近代日本の外面主義が映る。国益と個人幸福の対立は古典的…

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『高瀬舟』読書感想

作品:高瀬舟/作者:森鴎外/投稿日:2025-08-31

罪人を京から島へ運ぶ小舟での短い対話に、善悪や生死観の深淵がのぞく。弟を安楽死させた罪を負う喜助の平明な口ぶりに、読者は戸惑いながら耳を傾ける。見張りの庄兵衛は当初、法の外側にある行為を断じようとするが、語りを聴くうちに揺らぐ。その揺らぎが…

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『たけくらべ』読書感想

作品:たけくらべ/作者:樋口一葉/投稿日:2025-08-31

吉原近傍の子どもたちの季節の移ろいを描く『たけくらべ』は、言葉の襞に光が宿る作品だ。美登利と信如の距離は縮まらず、むしろ社会の仕組みが二人の運命を先取りしてしまう切なさがある。一葉の文体は繊細で、地の文の音楽性が独特だが、そこに生活の手触り…

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『破戒』読書感想

作品:破戒/作者:島崎藤村/投稿日:2025-08-31

被差別部落出身であることを隠す教師・瀬川丑松の苦悩を描く『破戒』は、自己の出自と社会制度が交錯する地点で「語る/沈黙する」の倫理を問い直す。丑松が教師であることの重みは、模範たれという外部の視線と、子どもに真実を見せたいという内なる誠実さの…

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『刺青』読書感想

作品:刺青/作者:谷崎潤一郎/投稿日:2025-08-31

美と残酷が絡み合う初期谷崎の光芒。絵師清吉が若い女の背に刺す蜘蛛の女の意匠は、肉体と意志の反転をもたらす儀式のようだ。男は創造の名で支配を試みるが、刺青を受けた女の眼差しに立場は逆転する。性の力学を怪異の美で包み、恐れを快楽へ変換する手つき…

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『羅生門』読書感想

作品:羅生門/作者:芥川龍之介/投稿日:2025-08-31

飢饉と荒廃の京都で下人が生き延びるために選ぶ一歩は、善悪の彼岸というより、倫理の基盤が崩れた場における動物的生存の確かさを示す。老婆の髪抜きに込められた論理は身勝手だが、下人の決断もまた同質の必然に見える瞬間がある。芥川は寓話の形式で、価値…

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