『こころ』読書感想

作品:こころ/作者:夏目漱石/投稿日:2025-08-31

『こころ』は「先生」と「私」の関係を通じ、罪責と孤独、そして明治という時代の終焉を静かに告別する小説だ。第三部の遺書は圧巻で、告白文学の極点として胸に刺さる。先生の倫理は自己完結的で、他者に届かないがゆえに純粋でもある。Kとの三角関係は恋愛劇の枠を越え、自己観察の病が生む破局の寓話に見えた。近代自我の透明化は、同時に世界への不信を深める。父の死と明治天皇の大喪が地続きに響き、個の悲嘆と国家の儀礼が呼応する構図が鮮烈だ。言葉は抑制され、沈黙の部分が大きい分、読者は行間を読む責務を負う。優しさと残酷さを併せ持つ、再読のたび新しい影が立ち上がる作品。