『舞姫』読書感想
留学官吏の青年がエリスとの恋と出世の板挟みで崩れていく『舞姫』は、自己物語の語りの癖そのものがテーマ化される作品だ。一人称独白の昂ぶりは時に芝居がかっているが、そこにこそ青年の自己演出と近代日本の外面主義が映る。国益と個人幸福の対立は古典的だが、語りの速度が悲劇を加速し、決断の瞬間の薄氷感が生々しい。エリスの声がほとんど届かない構造は不均衡だが、むしろその沈黙が物語の暴力性を示す。終盤の断絶は読者に後味の悪さを残すが、それが近代化の影の濃さでもある。整った文章の美と倫理の歪みとの落差に、今も揺さぶられた。