『破戒』読書感想

作品:破戒/作者:島崎藤村/投稿日:2025-08-31

被差別部落出身であることを隠す教師・瀬川丑松の苦悩を描く『破戒』は、自己の出自と社会制度が交錯する地点で「語る/沈黙する」の倫理を問い直す。丑松が教師であることの重みは、模範たれという外部の視線と、子どもに真実を見せたいという内なる誠実さの間に引き裂かれる形で現れる。猪子蓮太郎の思想は時に急だが、その急さが丑松の躊躇と響き合い、物語は緊張を保つ。告白の場面は予定調和を拒み、読者に居心地の悪さを残すが、それこそが社会の現実の硬さだ。近代文学が倫理を実地で試す場所として、今も効力を失っていない。