日本文学ブログ

『こころ』紹介と感想:告白を読むという経験

作品:こころ作者:夏目漱石投稿日:

『こころ』は、若い「私」が出会った先生への関心から始まり、後半で先生の過去へ深く入っていく。親しさを求める気持ちと、相手を知り切れない距離が重なり、静かな会話にも緊張が宿る作品だ。先生の長い告白は、それまで見えなかった過去を照らす。ただ、本人が誠実に語ろうとしていても、記憶は一人の視点で並べ直される。読んでいるこちらは説明を受け取る側に置かれ、反対の声を直接聞けない。その構造を意識すると、告白の迫力は弱まるどころか増してくる。人が自分の罪を言葉にするとき、何を理解でき、何を取り逃がすのかが切実に感じられた。先生を理解した気になったところで、ほかの人物の立場へ視線を移すと読みが揺れる。告白が明らかにするものと、それでも語り残されるものを、並べて考えたくなる。