日本文学ブログ

『たけくらべ』紹介と感想:町のにぎわいから入る

作品:たけくらべ作者:樋口一葉投稿日:

『たけくらべ』は、吉原に近い町で暮らす美登利や信如らの、子どもから大人へ移る時期を描く。遊びや意地の張り合いには明るさがあるが、その先には家業や町の仕組みが待っている。物語の町は、人物の後ろに置かれた背景ではない。通りのにぎわいや人の評判が、子どもたちの遊び方や立場にも入り込んでいる。誰がどの家の子かを皆が知っている場所では、自由なように見える毎日にも見えない境界がある。まず町の音を聞くように読んでみると、個人の気持ちだけでは動かない物語なのだとわかる。親密な共同体の温かさと窮屈さが隣り合っていた。変わっていく心だけでなく、変わるよう求める周囲の力まで感じられるのが切ない。声に出したときの文章の流れを味わうと、子どもたちのにぎわいと沈黙の両方が近づいてくる。