『刺青』紹介と感想:主導権が反転する結末
『刺青』は、刺青師の清吉が若い女の背に蜘蛛を彫る短編だ。美を作り出す者の欲望と、作品を刻まれる者の変化が結びつき、短い物語の中で二人の力関係が大きく動いていく。清吉は自分が変化を起こす側だと考えているが、完成に近づくほど、その立場は安定しなくなる。作り手が作品を支配し続けられるとは限らないという読み方もできるし、欲望に自ら捕らわれる話とも読める。結末の鮮やかさは、力の移動を長い説明なしに感じさせる点にある。ただ勝者が入れ替わったと整理するより、美と支配が離れないことの不気味さを受け止めたい。美しいものができたという結果だけでは、この関係を受け止め切れない。見る者と見られる者、作る者と作られる者の立場が揺れる過程に、甘美さと落ち着かなさが同居している。