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『雁』紹介と感想:語り手が振り返る過去

作品:雁作者:森鴎外投稿日:

『雁』は、東京の町を舞台に、お玉と学生の岡田とのかすかな接点を描く小説だ。お玉の暮らしの事情と、通りを歩く岡田の時間が並び、同じ出会いが二人に同じ意味を持つとは限らないことが見えてくる。この物語は、出来事を後から眺める語りの中に置かれている。そのため、当時はわからなかったことを知る視線と、もう変えられないという感覚が重なる。読者は筋を追いながら、すでに失われた可能性を見ている気分になる。回想には整理する力があるが、取り戻す力はない。語りの落ち着きが、かえって小さな機会を逃すことの取り返しのつかなさを強めている。大きな約束が交わされる前の、期待だけが育つ時間に心を引かれた。すれ違いを運命の一言にせず、それぞれの生活と知り得ることの違いから読み直したくなる作品だ。