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『雁』紹介と感想:小さな偶然が分ける道

作品:雁作者:森鴎外投稿日:

『雁』は、東京の町を舞台に、お玉と学生の岡田とのかすかな接点を描く小説だ。お玉の暮らしの事情と、通りを歩く岡田の時間が並び、同じ出会いが二人に同じ意味を持つとは限らないことが見えてくる。人生の分かれ目が、必ずしも大きな決断として現れるわけではない。この作品では、予定や些細な出来事の重なりが、人と人を結びつけたり遠ざけたりする。あとからなら別の道を想像できても、その場にいる人物には全体が見えない。偶然を劇的に飾らず、日常の流れの中に置くところが切なかった。何も起こらなかったように見える日にも、失われる可能性はある。大きな約束が交わされる前の、期待だけが育つ時間に心を引かれた。すれ違いを運命の一言にせず、それぞれの生活と知り得ることの違いから読み直したくなる作品だ。