『十三夜』紹介と感想:車夫との再会が開く過去
『十三夜』は、嫁ぎ先で苦しむお関が実家を訪れ、帰り道でかつて縁のあった男性と出会う短編だ。短い夜の中に、結婚、家族、選ばれなかった人生の気配が凝縮されている。帰り道の再会によって、お関の現在の外側に、別の人生の可能性が浮かび上がる。しかし相手も昔のままではなく、それぞれに時間を生きてきている。懐かしさだけで結び直せないところが切ない。もしもを考えることは今を変えなくても、自分の歩いてきた道を照らすことがある。二人の会話は、失ったものを確かめ合うようでいて、互いを一瞬支えるようにも感じられた。別の道を想像できても、そこへ今から移れるとは限らない。夜の会話を追うと、諦めという一語では言い表せない、生活を背負った人同士の近さと遠さが残る。