『鼻』紹介と感想:鼻を短くする場面の手触り
『鼻』は、長い鼻を気にする僧、禅智内供を描く短編だ。外見の悩みをめぐる滑稽な出来事から始まり、他人にどう見られるかという不安と、見る側の勝手な感情へ踏み込んでいく。鼻を短くするための手順は、真剣であるほど滑稽に見える。身体を具体的に扱う描写が、内供の切実な願いと読者の笑いを近づけているからだ。本人にとって重大なことが、外からは妙な作業に見える。この視点の差が小説の核なのかもしれない。笑って読み進めた後、その笑いも周囲の人々と似ていると気づき、読者でいることの気楽さが少し揺らいだ。内供だけを笑っていたはずが、いつの間にか笑う自分の立場も問われている。悩みの解決と心の平安が同じでないことを、軽妙な語りで突きつける作品だった。