『鼻』紹介と感想:僧の肩書と人間らしさ
『鼻』は、長い鼻を気にする僧、禅智内供を描く短編だ。外見の悩みをめぐる滑稽な出来事から始まり、他人にどう見られるかという不安と、見る側の勝手な感情へ踏み込んでいく。内供が僧であることは、悩みの可笑しさを強める。心の平静を求める立場でも、自分の見え方から自由にはなれないのだ。ただ、それを偽善とだけ呼ぶと、人物が薄くなってしまう。役割に期待される姿と実際の気持ちがずれるのは、多くの人に起こることだろう。立派な肩書の下にある小さな不安を描くことで、内供は遠い昔の人物でなく、隣にいそうな人になる。内供だけを笑っていたはずが、いつの間にか笑う自分の立場も問われている。悩みの解決と心の平安が同じでないことを、軽妙な語りで突きつける作品だった。