『鼻』紹介と感想:元に戻ることの安心
『鼻』は、長い鼻を気にする僧、禅智内供を描く短編だ。外見の悩みをめぐる滑稽な出来事から始まり、他人にどう見られるかという不安と、見る側の勝手な感情へ踏み込んでいく。変わることを願っていた内供が、最後には元の状態に安堵する。そのねじれが面白く、同時に悲しい。望みがかなうことより、他人の反応が予想できることの方が安心につながる場合があるのだろう。何も変わらなかった話に見えて、人の満足の不安定さが明らかになる。結末から冒頭へ戻ると、鼻そのものより周囲との関係が問題だったことがはっきりしてくる。内供だけを笑っていたはずが、いつの間にか笑う自分の立場も問われている。悩みの解決と心の平安が同じでないことを、軽妙な語りで突きつける作品だった。