『注文の多い料理店』紹介と感想:逃れた後にも残るもの
『注文の多い料理店』では、猟に来た二人の紳士が山中で不思議な店に入り、次々と掲示された指示に従う。軽快な会話で進む童話だが、客だと思っていた立場が揺れるにつれて怖さが増していく。危機から離れれば元どおり、という終わり方にはならない。体験の痕跡が残ることで、二人が見てしまった世界の反転は消えないのだ。怖い話を楽しんだあとにも、初めのように動物を眺められるのかが気になる。罰が済んだから終わりと整理するより、何を知ってしまったのかを考えたい。笑いの調子を保ちながら、安心だけを渡さない結末が鮮やかだった。同じ言葉でも、自分に都合のよい意味で読めば危険に気づけない。二人の勘違いに笑いながら、読む自分にも似た思い込みがあることを感じる、よくできた短い物語だ。