『やまなし』紹介と感想:クラムボンという言葉の響き
『やまなし』は、川底に暮らす蟹の親子の世界を、五月と十二月の二つの場面で描く童話だ。水の光や泡の動きが鮮やかで、人間の目線を離れて流れの中へ入るような読書になる。クラムボンの正体を一つに決めようとすると、どうしても答え探しになる。けれども、意味のつかめなさを残して読むと、蟹の子どもたちの会話の調子が先に届く。知らない言葉があっても、楽しさや不安の変化は感じられるのだ。言葉は説明するためだけに働くのではない。この不思議な響きが、読者を人間の日常とは別の感覚へ招き入れているように思った。言葉の意味をすべて確定しなくても、音や色の変化から感じ取れるものがある。短い二枚の景色を往復すると、水の中の小さな世界が、命の不安と恵みをともに抱えているとわかる。