『高野聖』紹介と感想:旅の苦しさが怪異を近づける
『高野聖』は、旅の僧が山中で経験した不思議な出来事を語る小説だ。険しい道の身体感覚から妖しい家の気配へ進み、現実の旅と怪異の境目が次第に曖昧になっていく。山道での疲れや不快な感触が細かく伝わるため、不思議な出来事も抽象的な幻想にとどまらない。身体が弱っているところへ未知のものが現れると、助かりたい気持ちと警戒が入り交じる。読者もその状態へ引き込まれるから、山中の家がひときわ魅力的で不穏に見えるのだろう。怪談の怖さを支えているのが、まず道を歩く現実的な苦労である点が面白かった。怪異の正体を整理するだけでは、読むときの湿度や不安は捉え切れない。語られる話に耳を傾ける姿勢で読むと、山の外へ戻っても消えない夢のような余韻が残る。