『高野聖』紹介と感想:語りの中に入る聞き手
『高野聖』は、旅の僧が山中で経験した不思議な出来事を語る小説だ。険しい道の身体感覚から妖しい家の気配へ進み、現実の旅と怪異の境目が次第に曖昧になっていく。僧の体験を聞く形で物語が進むため、読者も話の席に加わったように感じる。目の前で起きる出来事とは違い、すでに帰ってきた人が語っているという安心もある。それなのに、何が本当だったのかはかえって定めにくい。話す人の記憶と聞く人の想像の間で怪異が形になるのだ。入れ子の構成が、遠い話を近くへ運ぶ働きをしている。怪異の正体を整理するだけでは、読むときの湿度や不安は捉え切れない。語られる話に耳を傾ける姿勢で読むと、山の外へ戻っても消えない夢のような余韻が残る。