日本文学ブログ

『高野聖』紹介と感想:女の魅力と僧の視線

作品:高野聖作者:泉鏡花投稿日:

『高野聖』は、旅の僧が山中で経験した不思議な出来事を語る小説だ。険しい道の身体感覚から妖しい家の気配へ進み、現実の旅と怪異の境目が次第に曖昧になっていく。山中の女は、親切さと妖しさを併せ持つ存在として僧の前に現れる。ただ、その姿は僧の体験として語られていることを忘れたくない。魅了される気持ちと警戒する気持ちが、相手の見え方を変えている可能性もあるからだ。女を危険の象徴だけにしてしまうより、見る者の欲望や恐れを含めて読むと、人物の輪郭がいっそう揺らぐ。その揺らぎが作品の魅力に思える。怪異の正体を整理するだけでは、読むときの湿度や不安は捉え切れない。語られる話に耳を傾ける姿勢で読むと、山の外へ戻っても消えない夢のような余韻が残る。