『高野聖』紹介と感想:人と獣の境界を考える
『高野聖』は、旅の僧が山中で経験した不思議な出来事を語る小説だ。険しい道の身体感覚から妖しい家の気配へ進み、現実の旅と怪異の境目が次第に曖昧になっていく。人の姿が確かなものではなくなる世界では、日常の分類が役に立たない。見た目から相手を判断してよいのか、自分自身は変わらずにいられるのかという不安が生まれる。変身を単なる見せ場としてではなく、欲望に引き寄せられることの怖さとして読むこともできそうだ。山を離れたあとまで境界が不確かに感じられる。怪異が外の世界だけに属していないからだろう。怪異の正体を整理するだけでは、読むときの湿度や不安は捉え切れない。語られる話に耳を傾ける姿勢で読むと、山の外へ戻っても消えない夢のような余韻が残る。