『斜陽』紹介と感想:母の優雅さを読む
『斜陽』は、戦後に生活を変えていくかず子と母、弟の直治らを描く小説だ。家の没落という背景に、それぞれが何を失い、どう生きようとするかという異なる時間が重なっている。母の振る舞いには、生活が変わっても残る優雅さがある。それは単なる礼儀の正しさというより、本人の身体に染み込んだ調子として感じられる。美しいと思う一方、そのあり方が新しい現実に適応する力とは限らないことも見えてくる。失われる世界を母一人に重ね過ぎず、その人自身の弱さや親しさへ目を向けると、象徴ではない人物として近く感じられた。古い世界が終わることは、新しい生き方がすぐ手に入ることではない。人物ごとに違う足取りを追うと、衰えの美しさだけでは収まらない、生への強い要求が聞こえてくる。