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『博士の愛した数式』紹介と感想:野球がつなぐ日常

作品:博士の愛した数式作者:小川洋子投稿日:

『博士の愛した数式』は、新しい記憶が長く続かない数学者と、家政婦、その息子の交流を描く小説だ。数は難しい問題としてだけでなく、人と人が言葉を交わすきっかけとして現れる。野球をめぐる話題は、数学とは違う調子で三人の距離を縮める。数字が記録や背番号として生活の楽しみへつながることで、博士の世界が部屋の外にも開いていく。共通の話題を持つことの嬉しさと、記憶の時間が一致しない切なさが隣り合う。難しい概念と身近な娯楽を分けずに描くため、知性が特別な場所にだけあるものではなく、暮らしの中に息づいて感じられた。一緒に過ごしたことを同じように覚えていなくても、その時間の価値までなくなるわけではない。数の美しさと日々の気遣いが結びつき、関係を続けることの意味を静かに考えさせる。(作品情報:新潮社