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『キッチン』紹介と感想:台所が安心できる場所になる

作品:キッチン作者:吉本ばなな投稿日:

『キッチン』は、祖母を失ったみかげが、雄一やえり子との暮らしを通じて日々をつなぎ直していく物語だ。表題作と続編に流れる食事や台所の気配が、喪失を抱えた生活を具体的に伝える。みかげにとって台所は、料理をするためだけの場所ではない。物の気配や生活の音があることで、一人の身体を置ける場所になる。抽象的に居場所が必要だと語るのではなく、どこなら眠れそうかという感覚から描くところが好きだ。悲しみの中では、大きな励ましより身近な設備や温度が支えになることもある。題名が暮らしの手触りをそのまま引き受けている。悲しみが消えたから暮らせるのではなく、悲しみのあるまま食べ、眠り、人と会う。その順序を大切にする文章が、回復を急がせず、今日の生活へ静かに目を向けさせてくれる。(作品情報:新潮社