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『キッチン』紹介と感想:えり子の存在感を読む

作品:キッチン作者:吉本ばなな投稿日:

『キッチン』は、祖母を失ったみかげが、雄一やえり子との暮らしを通じて日々をつなぎ直していく物語だ。表題作と続編に流れる食事や台所の気配が、喪失を抱えた生活を具体的に伝える。えり子の明るさは、場を華やかにする一方、それまで生きてきた時間の厚みも感じさせる。周囲から見た特別さだけで人物を説明するより、みかげや雄一へ向ける具体的な言葉を追いたい。生活を共にする人として読むことで、その存在の大きさが伝わる。強く見える人物にも傷つく可能性があることを、作品は忘れない。だから明るい場面も単純な安心には収まらない。悲しみが消えたから暮らせるのではなく、悲しみのあるまま食べ、眠り、人と会う。その順序を大切にする文章が、回復を急がせず、今日の生活へ静かに目を向けさせてくれる。(作品情報:新潮社