『キッチン』紹介と感想:食べることと悲しみの時間
『キッチン』は、祖母を失ったみかげが、雄一やえり子との暮らしを通じて日々をつなぎ直していく物語だ。表題作と続編に流れる食事や台所の気配が、喪失を抱えた生活を具体的に伝える。悲しいときにも空腹になり、何かを作り、食べる時間が来る。その身体の持続が、心の停止したような感覚と並んで描かれている。食事がすぐ問題を解決するのではなく、今日を越える動作になる点が印象的だった。美味しいと感じたことを、悲しみへの裏切りとしない優しさがある。生活の喜びと喪失の痛みを同時に持っていてよいと、文章の調子から感じられた。悲しみが消えたから暮らせるのではなく、悲しみのあるまま食べ、眠り、人と会う。その順序を大切にする文章が、回復を急がせず、今日の生活へ静かに目を向けさせてくれる。(作品情報:新潮社)