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『キッチン』紹介と感想:軽やかな言葉が届く理由

作品:キッチン作者:吉本ばなな投稿日:

『キッチン』は、祖母を失ったみかげが、雄一やえり子との暮らしを通じて日々をつなぎ直していく物語だ。表題作と続編に流れる食事や台所の気配が、喪失を抱えた生活を具体的に伝える。語りには日常会話に近い軽さがあるが、扱われる出来事は軽くない。その組み合わせによって、悲しみが遠くの大きな概念にならず、今の気分として届く。重いことは重々しい文体でしか語れないわけではないのだ。ふとした感覚の変化を拾う言葉が、説明し切れない心の動きを支えている。読みやすさの中に、感情を単純にしない慎重さを感じた。悲しみが消えたから暮らせるのではなく、悲しみのあるまま食べ、眠り、人と会う。その順序を大切にする文章が、回復を急がせず、今日の生活へ静かに目を向けさせてくれる。(作品情報:新潮社