『舟を編む』紹介と感想:馬締の不器用さと適性
『舟を編む』は、馬締光也らが辞書「大渡海」の完成を目指す小説だ。言葉を集め、意味を考え、確かめる地道な仕事が、人の関係や長い時間の流れと結びついて描かれる。馬締は人付き合いで滑らかに振る舞えなくても、言葉へ向ける注意には独自の強さがある。不得意な場面だけで人物を測ると見えない力が、仕事との出会いで現れるのだ。単に隠れた才能が認められる話としてではなく、環境によって同じ性質の意味が変わる話として読める。本人が変わることだけでなく、周囲がどう見るかも重要だと感じさせる人物像だった。普段は完成した辞書しか見えないが、その一項目にも人の判断と手間がある。言葉を使うことを少し丁寧にしたくなると同時に、何かを皆で作る時間の尊さが残る作品だった。(作品情報:光文社)