『羊をめぐる冒険』紹介と感想:鼠の不在をたどる
『羊をめぐる冒険』は、ある羊を探すことになった「僕」が、北海道へ向かう長編だ。日常の仕事や会話の延長に不可解な要求が入り込み、探索が進むにつれて友人や自分の過去の意味も変わっていく。鼠をめぐる探索では、直接一緒に過ごす時間より、残された手がかりから友を考える時間が長く感じられる。相手を知っていたという感覚が、知らなかった部分によって揺さぶられるのだ。友情は会っていた頃の記憶だけで完結しないのかもしれない。謎を追う筋の中に、失われた関係を引き受け直す動きがある。それが冒険を、個人的で静かな痛みのあるものにしている。謎を解く楽しさと、失われた関係をたどる寂しさが同じ旅に流れている。すべてを記号の答えに置き換えず、道中の物や会話の感触を残して読むと、長い余韻を味わえる。(作品情報:講談社)